長くお付き合いのあるお客様へ

小見山日記

― 長い付き合いだからこそ、大切にしよう ―

美容師という仕事を続けていると、気づけば10年、20年とお付き合いのあるお客様が増えていきます。
初めての来店の日、緊張した笑顔、まだ遠慮がちに話してくれた頃を思い出すと、月日の流れを感じずにはいられません。

そのお客様が結婚をし、出産をし、お子様の髪を切らせていただくようになる。
そうした「人生の時間」を共有できる仕事が美容師です。

でも、そんな“長い付き合い”が当たり前になったとき、私は大きな過ちを犯しました。
それは――「わかってくれるだろう」という慢心です。


■ 「わかってくれる」という甘えが、信頼を壊す

今年、私は何人ものお客様を失いました。
10年以上通ってくださっていたお客様です。

理由はいくつもあったと思います。
タイミングが合わなかったこともあるでしょう。
他の美容師を試してみたくなった方もいたかもしれません。

でも、根本の原因は私の中にありました。
「長く通ってくれているから、多少遅れても、少し雑になっても大丈夫だろう」
そう思っていたのです。

それは、美容師として最もやってはいけないことでした。
どんなに長い付き合いでも、お客様は“プロとしての私”に会いに来てくれている。
そこに「甘え」や「慣れ」が入った瞬間、信頼は静かに崩れていきます。


■ お客様は、あなたの一日を信じて予約をしている

お客様は、ただ髪を切りに来るわけではありません。
その日のために、いろいろな準備をしています。

新しい洋服を選び、SNSで似合いそうなスタイルを探し、
ときには写真を持って、「これ、私に似合うかな」と期待を胸にご来店されます。

仕事帰りに疲れていても、休日の貴重な時間を使ってでも、
「あなたに切ってもらいたい」と思って予約をしてくれる。

その一回の来店の裏側には、お客様の想いと期待が詰まっているんです。
だからこそ、美容師が「今日はこんな感じでいっか」と手を抜いた瞬間、
その信頼は目に見えない形で離れていくのです。


■ お客様ファースト――当たり前だけど、忘れやすい真理

美容師を続けていく以上、絶対にお客様ファーストでなければならない。
この言葉はシンプルだけど、実は非常に奥が深い。

「自分の都合よりお客様の時間を優先する」
「自分の感覚よりお客様の満足を優先する」
「自分の好みよりお客様の理想を優先する」

この積み重ねこそが、美容師の信頼をつくる唯一の道です。
技術だけでなく、気づかいや姿勢、話し方、空気感。
そのすべてを通してお客様は“人としてのあなた”を見ています。

お客様はプロの技術だけを求めているわけではありません。
「この人に任せたい」と思える安心感を求めています。
だからこそ、“長い付き合いだからこそ大切にする”という意識を持ち続けることが何より大事なんです。


■ 美容師の仕事は、価値の提供業

「お客様が思っている以上の価値を与えるのが美容師」
これは、私が心から信じている言葉です。

単に髪を整えるだけなら、今の時代、セルフでもできます。
カラーも市販品で済ませようと思えばできてしまう。
では、なぜお客様はわざわざ美容室に来るのか。

それは、「価値」を感じたいからです。
技術、接客、空間、雰囲気、そしてその人にしかない世界観。
そこに“お金を払う理由”がある。

美容師の価値は「技術」ではなく、技術に込められた想いにあるのです。
そしてその想いが伝わったとき、価格を超えた感動が生まれます。


■ 「価値を与え続ける人」からお客様は離れない

私は今、はっきりと言えます。
毎回お客様に価値を与えている美容師から、お客様は絶対に離れません。

逆に離れてしまうということは、どこかに「手抜き」や「慣れ」が生まれていたということ。
人は“技術の高さ”よりも“想いの深さ”に心を動かされます。

毎回、全力でその人の「今の美しさ」を引き出す。
前回よりも今回、今回よりも次回と、常に更新し続ける。
その積み重ねが「10年以上のお付き合い」を生み出すんです。

お客様は、あなたが想像する以上に敏感です。
少しの変化も感じ取り、あなたの誠実さを肌で感じています。
だからこそ、どんなに忙しくても、1人1人に全力で向き合うことが大切なんです。


■ 「大変」だからこそ、価値がある

美容師という仕事は、決して楽ではありません。
体力的にも、精神的にも、常にプレッシャーと隣り合わせです。
時には、努力しても報われないように感じることもあるでしょう。

「こんなに頑張っているのに、収入が見合っていない」
そう思ったことのある美容師は、きっと少なくないはずです。

でも、私は断言します。
本当に努力している人は、必ず対価をいただいています。

練習しなければレベルは上がらない。
レベルが上がらなければ、価値は生まれない。
価値がなければ、お客様はお金を払わない。

これは、とてもシンプルで、そして厳しい現実です。
でもそのぶん、美容師という仕事は正直なんです。
努力すればするほど、ちゃんと結果に返ってくる。
それがこの仕事の一番の魅力でもあります。


■ 価格以上の価値を与えたときに起こる“奇跡”

こんな経験、ありませんか?

お支払いを終えたお客様が「いつもありがとうございます」と言って、
小さな差し入れを渡してくれる。

または、次の来店のときに「今日はトリートメントもお願いします」と、
前回よりもメニューを増やしてくださる。

それは偶然ではありません。
あなたが価格以上の価値を提供した証拠です。

その瞬間、お客様は「この人にもっと感謝を伝えたい」と心から思っている。
つまり、あなたの仕事が“サービス”ではなく“感動”になった瞬間です。

美容師は、お客様の生活の一部に入り込む仕事です。
髪を通して、その人の人生の一部を彩る。
だからこそ、お客様からの「ありがとう」は、
ただの挨拶ではなく、あなたの努力への“答え”なのです。


■ 「長い付き合い」を続けるために必要なこと

10年以上の関係を築くというのは、奇跡に近いことです。
でもそれは偶然ではなく、積み重ねの結果です。

信頼は一度築いたら終わりではなく、毎回の施術で更新されていくもの。
そしてその更新が止まった瞬間、関係は静かに終わっていきます。

だからこそ、「長い付き合いだからこそ、大切にする」。
それを心に刻み、美容師としての初心を失わないこと。

それが、お客様と10年、20年と歩み続けるための唯一の道だと思います。


■ 終わりに ― 美容師という仕事の誇り

美容師という仕事は、本当に大変です。
でも、そのぶん“人を幸せにできる”という最高の職業です。

お客様が鏡を見て笑顔になる瞬間、
「ありがとう、またお願いします」と言ってくれる瞬間、
その一つひとつが、何よりの報酬です。

私も、失って初めて気づきました。
「長い付き合い」という言葉の重さを。
それは信頼の証であり、努力の証でもあります。

だからこそ、これからはもっと真摯に、もっと丁寧に、
お客様の“今”に全力で向き合っていこうと思います。

長い付き合いだからこそ、大切にする。
当たり前のようで、一番忘れてはいけないこと。

そして、これから出会うすべてのお客様に――
「この人に出会えてよかった」と思ってもらえる美容師でありたい。


✂️ 美容師の手の中には、人生を変える力がある。
その責任と誇りを胸に、今日もハサミを握ります。


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